断耳(だんじ)とは、犬を犬種のスタンダードに合わせるために耳の大部分を切除する外科手術のことをいいます。
しっぽを切断する「断尾(だんぴ)」と並んで、特定の犬種を対象に広くおこなわれてきました。
断耳の歴史
断耳が文献に登場したのは1678年にフランスのジャン・ド・ラ・フォンテーンが著した「Fables」だといわれています。
当時の断耳は、キツネのように先がとがった形状にしたり、クマのように丸みを帯びた形状に整形するといった例がみられ、あるいは完全に耳たぶのない状態にされることもありました。
19世紀になると、犬種のスタンダードが確立し、断耳はこの規定に合わせるためだけにおこなわれるようになりました。
実用的な理由
狩猟犬や牧羊犬
狩猟犬や牧畜犬が熊や狼などの害獣と争ったときに噛みつかれて致命傷を負わないようするためにおこなわれました。
闘犬
犬同士を戦わせる闘犬や、熊(ベアベインティング)や牛(ブルベインティング)と戦わせる見世物として犬が使われていました。
犬たちは熊に噛みつかれたり、雄牛の角に引っ掛けられないように耳を短く切断されていました。
とげのついた首輪をつけたブルドッグの姿を見ることがあると思いますが、これも動物に頭部を噛みつかれないための防御用として装着されたものです。
ブルドッグは心優しい犬種に改良されましたから、もちろん現在は実用的な意味はありません。
現在も断耳がおこなわれている犬種
現在も断耳がおこなわれている犬種には、シュナウザー、ドーベルマン、ミニチュアピンシャー、グレートデン、ボクサー、ボストンテリア、ブリュッセルグリフォン、ナポリタンマスティフ、アメリカンピットブルなどがあります。
断耳の現状
各国の状況
断尾の廃止・制限の動きと同様に、動物愛護の見地から、断耳についても世界各国で禁止の方針が打ち出されています。
ペット先進国の西欧では、1899年に断耳が禁止されたイギリスをはじめ、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ、デンマーク、フィンランド、スイス、オランダ、オーストリアなどで断耳が禁止されています。
このほか、多くの国が参加している「ペット動物の保護に関する欧州協定」において、断尾、断耳、声帯切除、猫爪の切除などを制限する旨の取り決めがされています。
断尾と同様に、アメリカでは断耳は禁止されていませんが、一部の州では断耳や断尾禁止の法整備がすすんでいるそうです。
日本の状況
日本にも断耳を禁止する法令はありません。
断耳を選択するかどうかは飼い主さんの意思に任されているのが現状ですが、美容目的の断耳をおこなわない方針の動物病院も増えているそうです。
まとめ
すでに手術が施された状態の子犬を迎えた飼い主さんのなかには、ドーベルマンやシュナウザーの耳は生まれつき立っているものだと思い込んでいる人もいると思います。
実際の手術内容を聞かされて驚きや後悔の念を示す人もいるといいます。
断耳が本当に必要なものなのかどうか、その意味をじっくり考えたいものです。
ちなみにワンちゃんをブリーダーから直接購入する際に、耳を切らないようにお願いすることもできます。