意外に思われるかもしれませんが、歯周病と心臓病には密接な関わりがあります。
今回は2つの病気の関連と、歯磨きの重要性について解説します。
歯周病とは
歯周病は犬猫ともに多く症例を見ることができます。
米国獣医歯科学会は、3歳以上の犬の80%以上、ねこの70%以上が歯周病を患っているという研究結果を報告しています。
食べ物かすが歯と歯茎の隙間に付着して、歯周病菌の活動によって歯垢に変質します。
やがて歯垢は歯石になり、そのまま放置すると歯肉に炎症を起こします。
歯を支える歯周組織に広く炎症が及ぶと、歯が抜け落ちたり下顎が骨折してしまう場合がありますが、ここまで悪化してから、飼い主さんがはじめて気づくケースもあるのだそうです。
歯周病と心臓病の関連メカニズム
歯周病菌は炎症を起こした歯肉や歯の中の血管に入り込みます。
血管に侵入した歯周病菌は、血の流れに乗って徐々に大きな血管へと流れ、最終的には心臓にたどり着きます。
歯周病菌は心臓や心臓に出入りする血管を攻撃し、それらの部位が炎症を起こすと、血液を通じて必要な酸素や栄養分を全身に送り出すことができなくなるのです。
僧帽弁閉鎖不全症につながる歯周病
僧帽弁閉鎖不全症とは
僧帽弁不全症は犬の心臓病のなかでもっとも多くみられる疾患です。
心臓には左右それぞれに心房と心室があります。
血液は右心房から右心室へ流れ、肺動脈を通ってあたらしい酸素を含んだ血液になります。
新鮮な血液は肺静脈を通って左心房から左心室へ流れ、大動脈を通って全身へと送られます。
心室の入口と出口には心臓弁があり、閉じたり開いたりして血液の逆流が起こらないように調節しています。
僧帽弁閉鎖不全症とは、左心房と左心室の間にある僧帽弁が変性することにより、血液の逆流が生じる病気です。
重篤化すると心不全のリスクが高まるとともに、肺に水がたまる肺水腫の症状を呈します。
歯周病菌との関連
僧帽弁閉鎖不全症には歯周病菌が関与していることがわかっています。
僧帽弁不全症の犬の心臓組織に付着する歯周病菌の検出率を調査したところ、歯周病ステージが高くなるほど菌の検出率が高かったそうです。
歯周病菌によって僧帽弁にダメージが加わり、正常な心機能が維持できなくなったと考えられています。
歯周病対策
心臓病、とりわけ僧帽弁閉鎖不全症を予防するためには、歯周病の予防と治療が重要です。
歯周病にならないように、日ごろから愛犬の口のケアに励みましょう。
歯ブラシを使って歯に歯垢が残らないように、しっかりと磨き上げることが大切です。
指サック型のものや歯みがきシートも販売されていますが、効果については、やはり歯ブラシには劣ります。
歯石予防に注目したフードも販売されています。
フードの形が歯をきれいにしやすいように工夫されているものや、歯石予防の効果があるポリリン酸ナトリウムが含まれているフードなども活用してみましょう。
すでに歯周病になっている場合についても、適切な口腔ケアによって歯肉の腫れや出血を軽減すれば、血液中に混入する歯周病菌の量を減らす効果が期待できます。
まとめ
歯周病菌による臓器への悪影響は心臓に限りません。
血液がたくさん集まる肝臓や腎臓、呼吸器にもトラブルが生じるリスクがあります。
「歯周病は万病の元」と覚えておきましょう。